BtoBカスタマージャーニーの作り方

BtoBカスタマージャーニーの作り方

「有効なリードは獲得できているのに商談にはつながらない」
「担当者とは意気投合したのに決裁の場で失注してしまった」
BtoBマーケティングの現場で、よく挙がるお悩みですが、実はBtoB特有の「時間(線)」と「組織(面)」の複雑さを踏まえないまま施策を打っていることに起因していることが少なくありません。
BtoBの検討期間は数ヶ月に及び、その間に見込客の関心は移り変わります。さらに、その背後では複数の関係者が意思決定に関わります。この複雑さを可視化する手段がカスタマージャーニーです。本コラムでは必要とされる理由から作成手順までを解説します。

BtoBマーケティングは「線」の発想が必要

BtoBマーケティングの難しさを理解するには、BtoCとの違いを購買にかかる時間の観点から捉え直すのが近道です。

BtoBマーケティングは「線」の発想が必要

BtoCの購買は、意欲が高まった瞬間をいかに捉えるかで決まります。「これが欲しい」と感じた個人が、その場の感情と自分の財布事情で短期間のうちに決断できるためです。マーケティングの役割は、購買意欲のピーク「瞬間の衝動(点)」を作ることが重要です。

一方、BtoBの購買はそのようには進みません。
担当者が「これは良い」と感じても、そこから上司への相談、見積の取得、他社との比較検討、予算の申請、稟議の決裁といった工程が続きます。この間、数ヶ月が経過することも珍しくありません。
そして長期化すればするほど、一度高まった熱意は薄れていきます。
「今は繁忙期で手が回らない」「上司に説明する資料を作るのが面倒になってきた」といった理由で、担当者の熱意が冷めて、案件が消えてしまうことは少なくありません。
つまり失注の原因が競合他社とは限らず、見込客の社内検討そのものが止まるケースが存在するということです。

以上より、BtoBで求められるのは、BtoCの様な購買意欲のピークをつくる「点」の発想ではなく、決裁が下りるまで関係をつなぎ続ける「線」の発想です。
適切なタイミングで接点を持ち、その時々に必要な情報を届けることで、熱意の減衰を防ぐ設計が重要なのです。

BtoBマーケティングを「点・線・面」で捉える

BtoBマーケティングを設計するうえでは、見込客の購買行動プロセスを「点」「線」「面」という3つの視点から捉える考え方が有効です。

点=ペルソナ 線=カスタマージャーニー 面=DMU
定義 「誰に」を特定すること。 「いつ」を整理し、
時間の経過に伴う
心理変化のプロセスを把握すること。
「組織」を押さえること。
役割 マーケティングの開始点となる
初期接点者の「ペイン・ニーズ」を
明確にする。
点と点をつないで
関係を継続させる。
複数の線を攻略し、
組織全体の合意を作る。
意味 「点」の接点から
マーケティングは始まる。
「点」を深掘りして、
どのようなメッセージを発信すれば
興味を持ってもらえるかを考える。
検討期間が長いBtoBにおいて
「忘れられないようにする」
「熱意を維持させる」ために
どのようなタイミングで
どのような情報を出せば
興味を引き付けられるかを考える。
BtoBの組織的な
意思決定プロセスを攻略すべく、
どのような関係者が存在するのか、
どのようなメッセージを発信すべきか
を考える。

点=ペルソナ

ペルソナとは、自社の顧客となる人物像を、「誰に」という単位まで特定したものです。
マーケティングはこの接点から始まるため、まず最初に定めるべき要素にあたります。
ペルソナを設定する目的は、初期に接触する相手を深く掘り下げ、どのようなメッセージを発信すれば興味を持ってもらえるのかを見極めることにあります。
相手の輪郭が曖昧なままでは、伝えるべき内容も定まりません。
人物像を具体化することで、その相手が抱えるペインとニーズが明確になり、施策の起点を定めることができます。

線=カスタマージャーニー

カスタマージャーニーとは、顧客が購買に至るまでの「いつ」を整理し、時間の経過に伴う心理変化のプロセスを把握したものです。
検討期間が長期に及ぶBtoBでは、一度接点を持っただけでは忘れられてしまいます。そこで、どのようなタイミングでどのような情報を出せば興味を引き付け続けられるのかを考えるためにカスタマージャーニーを描きます。
時間軸に沿って顧客の心理を整理することで、点と点を線でつなぎ、検討期間を通じて関係を継続させることが可能になります。

面=DMU

DMU(Decision Making Unit:意思決定単位)とは、購買を決定する「組織」そのものを押さえる考え方です。
BtoBの場合、窓口となる担当者の背後には、使用者や決定者といった複数の関与者が存在します。
BtoB特有の組織的な意思決定プロセスを攻略するために、どのような関係者が存在し、それぞれにどのようなメッセージを発信すべきかを明らかにするために、DMUを整理します。
関与者ごとの評価軸を把握することで、複数の線を並行して攻略し、組織全体の合意を形成することが可能になります。

BtoBマーケティングで成果を出すためには、この点・線・面を整理し、それぞれに対して打ち手を打っていくことにあります。
本コラムでは、このうち「線」にあたるカスタマージャーニーを扱います。

BtoBマーケティングを「点・線・面」で捉える

カスタマージャーニーがないと起きる、3つの失注シナリオ

ここでは、カスタマージャーニーを描かないことによる、よくある典型的な3つの失注シナリオをご紹介します。

① 情報収集段階への早期売込み

業界動向の把握や基礎的な学習のために資料をダウンロードした見込客に対し、すぐに商談を打診したり、見積を提示したりするケースです。
見込客はまだ自社の課題を整理している段階であり、購入を具体的に検討しているわけではありません。この時期に強い売込みを受けると、「勉強のために資料を見ただけなのに」と警戒心が働きます。
本来なら時間をかけて育成すれば顧客になったかもしれない層を、早期の売込みでブロックしてしまい、将来の売上を自ら消してしまう行動になりかねません。

② 部門間連携の分断

マーケティング部門はリード獲得数、インサイドセールス部門はアポイント数、営業部門は受注数と、各部署が自部門の指標だけを追いかけると、見込客の体験が分断されるため、見込客は混乱して離脱するケースがあります。
具体的には、マーケティングは基礎知識のコラムで集客しているにもかかわらず、インサイドセールスはクロージング前提の電話をかけ、営業はいきなり製品デモを見せるといった見込客からすると連携が取れていない状態です。
見込客の状態に合わせ、組織的な見込客体験の提供が必要です。

部門間連携の分断

③ 社内説得材料の不足

窓口の実務担当者と意気投合し、商談も盛り上がっている。それにもかかわらず、いざ決裁の段階になると上司のNGで失注する。BtoBで頻繁に起きるこの現象は、担当者が「機能」を気に入っている一方で、上司は「費用対効果」や「リスク」を見ているという、評価軸のズレによって生じます。
つまり、商談で見えていた相手(点)と、実際に決裁する相手(面)が別人だということです。売り手は、その決裁の場に立ち会えないため、上司を説得するのは担当者自身であり、売り手にできることは、その場で使える材料を事前に担当者に共有しておくだけです。
いつ・どのタイミングで・誰が・何を判断軸に商品の導入是非を決めるのか、そのために売り手は何を準備しておくべきなのか、この整理を行うことがDMUとカスタマージャーニーを描くうえで重要です。

BtoBカスタマージャーニーの作り方

ここからは、実際の作成手順を解説します。

カスタマージャーニーは、見込客の検討プロセスを横軸、各プロセスにおける見込客の状況と施策を縦軸に置き、顧客心理と行動を明確化します。

BtoBカスタマージャーニーの作り方

横軸:4つの購買プロセス

BtoB特有の長期的な検討を捉えるため、見込客の状態を次の4つに分類します。

非認知

自社の課題をまだ認識していない、あるいは認識していても現時点では解決する意欲を持たない層です。ただし、日常業務に役立つ情報の収集には積極的で、有益な内容であれば関心を向けます。

課題認識

自身や自社が抱える課題を自覚し、その解決方法を探し始めた層です。
まだ特定の手段に絞り込んではおらず、幅広い選択肢の中から検討を進めています。何が最適な解決策なのかを見極めようとしている段階であり、比較の土俵に乗るためには、この時期に情報を届けておく必要があります。

社内案件化

社内合意を獲得するため上司や関係部門に説明するための情報収集と整理を行い始めた層です。
導入するサービスをある程度絞り込んでいるケースが多いです。

比較検討

最終的な導入に向けて、候補となるサービスの比較と選定を行う層です。
機能や価格に加え、導入後の運用まで含めた総合的な視点で判断が下されます。失敗が許されない局面であるため、実績や信頼性を裏づける情報が判断を左右します。

縦軸:5つの要素

各フェーズについて、次の5要素を整理します。

  • 課題とペイン:その時期に見込客が直面している悩み
  • ニーズ:課題を解消するために求めているもの
  • リーチ:見込客と接点を持つための手段や媒体
  • コンテンツ:その局面で提示すべき情報や資材
  • ゴールアクション:見込客のリード情報を獲得するための受け皿

マトリクスを組み立てる2つのステップ

ステップ①:縦の整合性を確立する

枠組みができたら、まずはフェーズごとに縦方向を埋めていきます。
ペインが特定できれば、顧客が何を求めているか(ニーズ)が定まります。ニーズが定まれば、情報を探す媒体も、提示すべき内容も、促すべき行動も連動して決まります。この因果が上から下へ一本の筋として通っているかを、フェーズごとに確認していきます。
「まだ情報収集の段階なのに、比較資料や試算ツールを提示してしまう」といったミスマッチは、この縦の整合性が取れていないときに発生します。

ステップ②:横のつながりを整える

各フェーズの縦の柱が揃ったら、次に「非認知」から「比較検討」までの流れを横方向で確認します。
時間の経過とともに、提示する情報の専門性やゴールアクションの負荷が、自然な階段状に上がっているか。フェーズ間で不自然な跳躍が起きていないか。ここを精査することで、見込客の熱意を途切れさせない一連の流れが完成します。
縦で整え、横でつなぐ。この順序で組み立てることが、実務で機能するカスタマージャーニーをつくる要点です。

カスタマージャーニーがもたらす3つの効果

カスタマージャーニーを組織の共通認識として持つと、これまで各部門が個別に展開していた施策が、顧客の検討段階に沿った一貫したアプローチへと変わります。 具体的には、次の3つの効果が期待できます。

BtoBカスタマージャーニーがもたらす3つの効果

1. 理想と現実の照合~場当たり的な改善から、あるべき姿の設計へ

カスタマージャーニーを策定すると、顧客が本来必要としている情報とタイミングが可視化され、実態とのギャップが浮かび上がります。
カスタマージャーニーがない状態では、気になった箇所を改善する、といった個別最適な取り組みになりがちですが、各フェーズで顧客に何を届けるべきかが定義されていれば、どこのフェーズで何を行うべきか明確になります。
目についた問題に対処する取り組みから、描いた姿へ近づけていく取り組みへ。
この転換が、カスタマージャーニーがもたらす最も本質的な変化です。

2. 買い手目線で、必要なコンテンツが明確になる

コンテンツの検討は、放っておくと「自社の強みをどう伝えるか」という売り手の発想に傾きます。
カスタマージャーニーは、この起点を「顧客が次の段階に進むために、今どんな情報を必要としているか」へと反転させます。
たとえば認知段階の記事は充実しているが、社内案件化を支援するコンテンツは用意されていない、といった状態が明確になり、具体的なアクションにつながります。

3.ToDoリストへの変換

カスタマージャーニーを描くと、誰が何を行うべきかが明確になります。
マーケティング部門は検討段階に応じたホワイトペーパーを新設し、営業部門は稟議用のコンテンツを整備する、というように各部門が同じ1枚を参照しながら動けるため、施策の重複や抜け漏れが起こりにくくなります。
さらに、フェーズごとに必要なコンテンツを整理しているため、案件が滞りやすい段階や商談への影響が大きい段階から手をつけていくなど優先順位がつけやすく、限られたリソースを最適化することが可能となります。

まとめ

BtoBマーケティングで成果が伸び悩むとき、原因は個々の施策の巧拙ではなく、BtoBならではの購買行動プロセスをベースとしたマーケティング設計が出来ていないことにありがちです。
一度の接触で成果を求める「点」の発想から、検討期間を通じて関係を維持する「線」の発想、そして、担当者の背後にいる関与者まで視野に入れた「面」の考えを取り入れることで、施策は個別の打ち手の集合から顧客の意思決定を前に進めるための一貫した働きかけへと変わります。
この設計図となるのがカスタマージャーニーです。顧客の検討プロセスに寄り添った設計図を持つことで、それぞれの施策が何のために存在し、次のどの段階へつなぐものなのかが定まります。個々の打ち手が互いに支え合い、長い検討期間を通じて顧客の熱意を保ち続ける。BtoBマーケティングの成果は、その積み重ねの先に生まれるものと考えます。

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