Webアクセシビリティと2024年4月から法改正で義務化される内容との関係とは?対応方法を解説

Webアクセシビリティと2024年4月から法改正で義務化される内容との関係とは?対応方法を解説

2021年5月に改正された「障害者差別解消法」の2024年4月施行に伴い、障害者差別解消法における「合理的配慮」が、民間企業に義務化されます。それに伴い、製品やサービスのアクセシビリティを高める対応が求められますが、Webサイトについてはどのような対応が必要になるのでしょうか。今回は、法改正の概要や「Webサイトのアクセシビリティ」向上のための手順や方法ついて解説します。

※当社は「障がい」と記載するポリシーですが、「障害者差別解消法」に関しての記載においては正式な名称を用いています。

Webアクセシビリティと法改正による義務化との関係とは?

まずはWebアクセシビリティの概要や法改正との関係を確認しておきましょう。

Webアクセシビリティとは?

「アクセシビリティ」という言葉は「近づく」、「アクセスする」を意味する「Access」と「能力」、「できること」を意味する「Ability」で成り立っており、直訳すると「近づくことができる」「アクセスできる」という意味になります。

製品やサービスの分野で使われるときには、「利用者が製品やサービスを利用できること」や「利用できる度合いの到達度」という意味合いになります。

つまりWebアクセシビリティとは、Webサイトを利用する人の障がいなどの有無やその度合い、年齢、言語、利用環境などに関わらず、あらゆる人がWebサイトで提供されている情報やサービスを問題なく利用できること、またその到達度を指します。

外務省ではWebアクセシビリティを次のように定義しています。

「ホームページを利用している全ての人が、心身の条件や利用する環境に関係なく、ホームページで提供されている情報や機能に支障なくアクセスし、利用できること」
出典:外務省「ウェブアクセシビリティ」

Webアクセシビリティは、企業が発信するあらゆるWebサイトにおいて意識されるべきものといえます。

Webアクセシビリティと法改正による義務化との関係

従来は、各企業の任意でWebアクセシビリティが考慮され、高められてきましたが、2021年5月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、通称「障害者差別解消法」が改正されました。

法改正により、障がいのある人から申し出があった場合に「合理的配慮」をすることが義務化されるため、企業は提供製品やサービスに関わるあらゆるアクセシビリティを高めておく必要があります。

各事業分野での考え方として、主務大臣が定める「対応指針(ガイドライン)」によれば、総務省が「意思疎通の配慮の具体例」として以下を挙げています。
・ホームページを音声読み上げソフトに対応させるなど、通信・放送技術を活用し、視覚・聴覚障害者が利用しやすいものとすること
※総務省「関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針

また、内閣府の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」によると、「第5 その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項」において、合理的配慮を的確に行うための措置として「環境の整備」の実施に努めなければならず、その「環境整備」に「情報アクセシビリティ」が含まれています。情報アクセシビリティの中にWebアクセシビリティが含まれるため、対応が必要と言われています。
※内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針

法改正が施行されるのは2024年4月であることから、企業の間ではWebアクセシビリティへの対応が加速しています。

障害者差別解消法改正の背景と改正内容

障害者差別解消法が改正された背景と改正内容を確認しておきましょう。

障害者差別解消法とは

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(通称 障害者差別解消法)」は2013年6月に制定され、2016年4月1日から施行されました。

この法律は、国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として制定されました。

日本では、すべての国民が障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する「共生社会」の実現を目指しており、この法律では障がいを理由とする差別の解消を推進することを目的としています。

行政機関や事業者に対し、障がいのある人への障がいを理由とする「不当な差別的取扱い」を禁止し、障がいのある人から申出があった場合に「合理的配慮の提供」が求められています。

この法律における「障害者」の定義は、身体障がいのある人、知的障がいのある人、精神障がいのある人、心や体のはたらきに障がいがある人です。障がいや社会の中にあるバリアによって、日常生活や社会生活に相当な制限を受けている、子どもから大人まですべての人が対象となります。

不当な差別的取扱いの禁止とは

企業や店舗などの事業者や行政機関において、例えば「障がいがある」という理由だけで商品の販売やサービスの提供、各種機会の提供を拒否したり、それらを提供するに当たって場所や時間帯などを制限したりするなど、障がいのない人と異なる取り扱いをすることにより、障がいのある人を不利に扱うことは禁止されています。

合理的配慮の提供とは

障がいのある人に対しては、「合理的配慮の提供」が求められます。「合理的配慮の提供」とは、障がいのある人の活動などを制限しているバリアを取り除くために、障がいのある人が何らかの対応を必要としている意思が示されたときには、負担が重すぎない範囲で対応することを指します。

例えば、車椅子を利用している人が飲食店で車椅子のまま着席したいとの申し出があったときには、飲食店側は、机に備え付けてある椅子を片付け、車椅子のまま着席できるスペースを確保する対応が求められます。

法改正の背景と内容

同法は2021年5月に改正され、2024年4月1日から施行されることが決まっています。

主な改正内容として、事業者の「合理的配慮」が努力義務から義務となったことが挙げられます。

これまで行政機関などにとって「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」はどちらも義務でしたが、事業者においては「不当な差別的取扱いの禁止」は義務である一方、「合理的配慮の提供」は努力義務でした。

しかし今回の改正では、事業者にも「合理的配慮の提供」が義務化されることから、アクセシビリティに対して、これまでとは異なる対応と体制づくりが求められます。

障害者差別解消法改正によるWebサイトへの影響

障害者差別解消法改正により、「合理的配慮の提供」の義務化の対象が全事業者に拡大されたため、企業は、自社が提供するあらゆる製品やサービスの提供における体制を整えておく必要があります。

合理的配慮を提供しないことによる罰則はありませんが、報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりすると罰則があり、それによる社会的制裁もあり得るとされています。

例えば自社Webサイトについて、障がいのある人から「利用しづらく、必要な情報が得られない」との申し出があった場合には、事業者側が「合理的配慮」をすることが義務になります。その意味では、申し出がある前にあらかじめWebアクセシビリティに対応しておくことは必要と言えるでしょう。

Webサイトに関する申し出を受けていない段階で、あらかじめWebアクセシビリティに対応すること自体は義務ではありませんが、申し出があった際の対応を準備しておくのはもちろんのこと、あらかじめ申し出を想定し、申し出がないように事前的改善措置を実施しておくことが推奨されています。

Webアクセシビリティ対応の具体例

Webアクセシビリティを改善するためには、どのようなWebサイトにしておく必要があるのでしょうか。具体例を見ていきましょう。

●音声読み上げに対応する
聴力の弱い人や文字を読むことが困難な人が音声読み上げソフトを利用してWebサイトにアクセスしても、Webサイトの内容を理解できるようにします。例えば、画像の内容を音声読み上げるテキスト情報(alt属性)を登録しておくことや音声読み上げソフトでWebページが読み上げられる順番を考慮してHTMLを記述することなども、Webアクセシビリティ対応の一つと言えます。

●キーボードだけで操作できる
パソコンはマウスとキーボードで操作するのが一般的ですが、マウスを使わずにキーボードだけで操作できるようにすることで、マウス操作が困難な人でも利用することができます。

●文字が大きく読みやすい
目が見えにくい人や、子ども、高齢者などは文字が大きいほど読みやすくなります。

●一部の色が区別できなくても情報が問題なく得られる
色の識別がしづらい人でも問題なく情報が得られるよう、色の違いのみによって伝えられる情報はテキストで補足説明を加えるなどの対応が必要です。また、できる限り多くのユーザーが視認できる色コントラストに対する配慮も必要です。

●動画の音声をテキスト表示して音なしでも利用できる
音声が流れる動画の視聴を提供する際には音声をテキスト表示して、聴力が弱い人にも情報が欠けることなく利用できるようにします。

●理解しやすくわかりやすい設計である
Webサイト全体のデザインや構造、画面の構成など、誰もがむずかしくなく、複雑でなく、わかりやすく理解しやすくしておきます。

これらは一例であり、他にもさまざまな対象者に向けた、さまざまな配慮が考えられます。Webアクセシビリティと一口に言っても多様な環境づくりが求められます。

Webアクセシビリティ向上のためのステップ

自社サイトのWebアクセシビリティを向上させる際には、まず自社サイトの現状を知った上で、必要な対応を行うことで、よりよい環境準備へとつなげることができます。
主に、次のステップに従ってWebアクセシビリティの対応を進めることをおすすめします。

Webアクセシビリティの基準を知る

Webアクセシビリティは、一定の基準が存在しており、企業はこれらの基準に準拠することを目指すことで、求められる対応を網羅できると考えられます。主な基準2つをご紹介します。

●JIS X 8341-3
JIS X 8341-3とは、2004年に日本工業規格によって制定された規格の一種で、正式には「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」といいます。

高齢者や障がいのある人を含む、すべての利用者が、使用しているデバイスやブラウザなどを通じてWebサイトを利用できるようにすることが目指されています。

2004年の制定以降、2回の改定が行われ、現在はJIS X 8341-3:2016となっています。

Webアクセシビリティを確保するための61項目の達成基準が規定されており、達成基準はA、AA、AAAの3つの適合レベルに分類されています。

例えば適合レベルAの項目例としては、「動画の音声情報を字幕として提供すること」や、「すべてのコンテンツをキーボードのみで操作可能にすること」などがあります。
また、適合レベルAAの項目例としては、「動画に音声解説を提供すること」や、「テキストは機能やデザインを損なうことなく200%まで拡大できるようにすること」などが挙げられます。
日本の公的機関のWebサイトは、この基準への準拠を目指して制作されています。

今回の法律改正で義務化されるのは「合理的配慮(負担が重すぎない範囲で対応すること)」であることも加味して、まずは簡易的な診断などで無理なく対応を開始し、中長期的にJIS規格 達成基準AAを目指していく、という流れが良いと考えています。

●WCAG
WCAGは「Web Content Accessibility Guidelines(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)」の頭文字をとったもので、Web技術の標準化を行う非営利団体であるW3Cが定めるWebアクセシビリティの基準です。

世界標準の規格として、障がい者に配慮のあるコンテンツ提供を目的に制定されました。WCAG1.0、WCAG2.0、WCAG2.1と幾度かアップデートが繰り返されています。

JIS X 8341-3は2010年にWCAG2.0の内容を取り込む形で大きく改定され、2016年にはWCAG2.0とまったく同一内容の規格として改定され、JIS X 8341-3:2016となりました。

それぞれのガイドラインと規格が一致規格になったことにより、Webアクセシビリティのチェック方法やツールを共通化できるようになりました。

Webアクセシビリティ診断を受ける

自社サイトが基準に準拠しているかどうか、またどのくらいの達成基準を満たしているのかを客観的に知るために、まずはWebアクセシビリティ診断を受けることをお勧めします。

簡易的な診断から、JIS X 8341-3:2016に基づく専門検査員による検査まで、さまざまな診断があります。自社に最適な方法で診断を検討しましょう。

現状把握の後に必要な箇所から改善する

Webアクセシビリティ診断の結果に基づき、改善案を検討します。考えられる改善案を洗い出し、優先順位の高いところから施策を実施していきましょう。

まとめ

Webアクセシビリティの向上は、障害者差別解消法で義務化された合理的配慮への対応のための環境整備として重要な取り組みといえます。

まずはWebアクセシビリティ診断で現状把握を行いたい、すぐにでも必要な箇所の改善を行いたいといった場合には、リーディング・ソリューションが提供している「BtoB企業向け Webアクセシビリティ診断」サービスをご利用いただけます。

マーケティングサイトやコーポレートサイトがアクセシビリティの要件を満たしているか診断し、その結果をもとにWebサイトの改善まで一括で実施するサービスです。

目標レベルに応じて2つのプランをご用意しており、「スタンダード診断」では診断ツール、及びJIS X 8341-3:2016の達成基準Aに基づいた85項目のチェックリストで当社コンサルタントが診断いたします。
「エキスパート診断」ではWebアクセシビリティ専門検査員による検査を実施し、検査証明書を発行いたします。

診断実施後は、結果をもとにWebサイトの改善を実施いたします。
高齢者の方、障がいをお持ちの方も、ストレスなくスムーズにWebサイトを閲覧していただけるようにWebサイトを改善するとともに、スマホ・タブレットなどのウェアラブル端末の普及に伴う多様なアクセス手段への対応も行い、「誰もが自由に情報を得られ、参加できるWebサイト」の実現に向けて、多様なユーザー層に対応した見やすく使いやすいWebサイト作りを目指します。

詳細に関しましては、サービスページをご覧ください。